「んで、次は?」
「そうだなぁ、立ち話もなんだから、ベンチとかソファに誘導する」
「ふんふん」
興味深そうに頷いたロイドは、部屋の中ほどにあるソファへとゼロスを導いた。
「こうやって座ると、距離も近くなるしな。・・・って、なんで俺さまがハニー役なのよ!」
「え、だって、ゼロスが教えてくれるって言ったんじゃないか」
口を尖らせて、ロイドはゼロスの抗議を却下した。
アルタミラの美しいホテル・レザレノ。
ゼロスが言うところの『盛り上がる部屋』では、ロイドがクールになれるナンパ術を伝授されている真っ最中だった。
「仕方ないな…。で、隣に座っても、急にがっついたりするなよ」
「ゼロスじゃないから、しないよ」
「ロイドくん、教わる気あるのかな?」
「悪かったって」
「まぁ、ハニーの様子を伺うのが大事だよな。相手の気分を盛り上げることを言いつつ、ちょっとずつ、だ。最初は、手を握ったり…」
「ふんふん」
相変わらず相槌を打ちながら、ロイドは言葉通りゼロスの手を取る。
「…お前、もしかしてほんとに“手取り足取り腰取り♪”とか思ってるんじゃないよな」
呆れた顔をしたゼロスの手を握ったまま、ロイドが首を傾げた。
「は?こしとり? それどんな鳥だ?」
「ハニーのすごいところは、それで大真面目だってところだよな・・・」
「だろ? 俺、カッコよくなれる気がするぜ」
「・・・。ま、いいや・・・。とにかく、徐々に距離を近づけて、肩が触れ合うくらいになったら、愛を囁きながらキス、だ。で、目が潤んできたら、相手の意思を確認して…」
「えっと…」
ロイドは顔を赤らめながら、ぎこちなくゼロスに口付ける。
「っっっって!! マジでしなくていいから!」
唇を拭おうと思ったゼロスの手は、両手ともロイドに握られていた。
「だって、しなきゃ分からないし…」
握った手首を引いて、ロイドはまたゼロスに顔を近づける。ゼロスが観念するよりも先に、再び唇が触れ合った。
もうどうにでもなれ、とばかりに目を閉じたゼロスの表情を伺いながら、ロイドは回数を重ね、時間を長くして初めての味に夢中になっていた。
手を離しても、ゼロスは逃げなかった。そっと手を伸ばして髪を撫でると、ふわりと甘い香りが誘いかける。
もっと、と本能が告げるのを堪えて、ロイドは離れた。
「次、は?」
「え…次?」
「だって、お前、目が潤んでる」
「なっ…」
見る見るうちにゼロスの顔は真っ赤になった。
「次は…そんなの、教えなくっても分かるだろ」
「よくわかんないけど、ま、いいや。カッコよくはなりたいけど、もうナンパしなくてもいいし…で、意思ってなんだ?」
「してもいいかだよ! やるかやらないか!」
怒ったように言い放ったゼロスに、ロイドはそっかと一人納得している。
「じゃあ、今気付いたんだけど、俺、ゼロスが好きだ」
「はい?」
「だからもうナンパはしなくてもいいんだけど、続きはしたいみたいなんだ。ゼロスは?」
「ロイドくん、それ反則…」
ゼロスはがっくりとうつむいて、髪で顔を隠した。
「え、何か間違えたか?」
「ちげーよ、俺さまもしたいっての。したいと思って好きだって気付くなんて最悪だ…。俺さまがっくり…」
「ゼロス」
呟いたロイドが遠慮がちに伸ばす手をがっしりと掴んで、
「好きとか、先に言ったら、負けなんだぜ?」
ゼロスは何とか普段の強気を取り戻す。
「このゼロスさまがきっちり、教えてやるよ」
翌朝。
朝食のテーブルでは、仲間たちが集まって彼らを待っていた。
「昨夜もあのアホ神子は、帰ってこなかったんだ」
ジーニアスは不満げに、パンをちぎる。
「どーせまた、どっかの女の部屋にでも行ったんだろ」
しいなが呆れ顔で言ったとき、二人が姿を現した。
「遅いわよ、二人とも」
リフィルが教師の顔で注意すると、ゼロスは行儀悪く腕を組んで答えた。
「悪ぃ悪ぃ。昨夜のハニーが離してくれなくってさ」
周囲がやはり、と溜め息をつく。ゼロスがまたふざけて何か言おうとした瞬間。
「おい、ゼロス。ハニーじゃないっていつも言ってるだろ」
絶妙なタイミングで、ロイドの発言は全員の耳に届いた。
「あっと、ロイドくん。そういう意味じゃなかったんですけど…」
ゼロスのフォローは棒読みで、まったく意味を成さなかった。
しいなは真っ赤になって、きょとんとしているコレットを連れてテーブルを移ってしまったし、リフィルはジーニアスの耳を塞いで、連れ去った。
プレセアは一言
「ゼロスくん、不潔です」
と冷たく言い残して、やはりしいなを追っていってしまった。
「おいおい、俺さまのせいじゃねーだろ」
ゼロスは少し青ざめた顔で言い訳したが、それに答える者は残っていなかった。
「神子」
唯一テーブルに残っていたリーガルが、神妙な顔で声をかける。
「デラックススイートに泊まったのだな」
「う〜…と、泊まりました…」
「あのチケットは一人用だ。追加の宿泊費は、後ほど請求させてもらう」
「えっと、メルトキオのマーテル教会に…ってわけにはいかないですね、ごめんなさい」
「あー、ゼロスは泊まってないぞ。うん。どっかの女の子をナンパしてたんだよな?」
ロイドが今更、空気の読めないフォローをする。
「いいよ、ハニー。俺さま、そんなハニーだから愛してるんだ」
ゼロスは溜め息をつきながら、それでも幸せそうに呟いた。
なんでもいいから、甘くてらぶらぶなもの!と思ったら
こんなことになってしまいました。
定番の、腰取り。
ゼロロイっぽい?
ナンパの仕方というより、本当に『やりかた』になっていてがっかりです。
しかもゼロスはもっとスマートだと思う。
あたしには、素敵な女の子の誘い方はわかりません。
その辺りはご容赦ください(笑)
2008.6.6 水月綾祢