地を穿つような雨が降っている。
いっそ全て孔だらけになって流れてしまえば、きっと不幸は減る。
跡を残しては消えていく雨粒を見ながら、赤い髪の神子はぼんやりと考えていた。
“どうせ中身は既にぼろぼろなんだからよ”
そう思ってから、窓の下に雨だというのに素振りをしている男の姿を認めて、慌てて水滴を消した。
今日は自由行動日だ。旅も終盤を迎え、雨でもあることだし、決戦に備えてアルタミラで休息を取ることになった。
皆思い思いの場所にいる、らしい。
そういえば、リーガルはさっき何か言いたげにケーキと紅茶をゼロスに差し出し、そのまま何も言えないまま執事に仕事に引っ張られて行った。
“会長さんは大変だよな”
物言いたげなその逞しい背中に、テセアラの神子から同情を含んだ視線が送られていた。
雨は降りやむ気配もない。
こんな日は忌わしい紅い髪が湿気を帯びて、さらに赤さが増している気がする。
“…馬鹿は風邪引かないと言うが、タオルでも差し出しに行こうか”
一心不乱に揺れる布を想い、ゼロスはもう一度下を見て、勢いをつけてカーテンを閉めた。
窓の下では、ちょうど熱血漢の少年の元に、金色の髪の神子が走って行くところだった。
雨すら越えて、窓越しに賑やかな声が伝わる。
コレットは綺麗な輝く神子だ。
薄汚れた紅い神子とは違う白く透明な…鏡の向こう側の自分。
外の世界と自分を隔てているのが、雨と窓だけとはゼロスには到底思えなかった。
「…俺さまダセえ」
彼は自嘲気味に呟いて、身を翻き俯いた。
カーテンと一緒に翻る女のように柔らかくもなく、男のようにごつくもない躯。
何も知らない人々が持囃すその肉体さえ、彼は嫌いだった。
…不完全な何処にも場所のない器。
抱き締められれば、いつでも紅い雪を思い出す。まっすぐに自ら輝く少年に求められた時でさえ。
部屋の中の空気が動いた。
憂いを帯びたしなやかな肢体は、艶やかな香りを振りまいて、真紅の髪とともに揺れる。
その風が収まった頃、彼は気配を感じて、顔をあげた。
いつの間にか、誰もいなかったはずの部屋にはもう一人。
「…何であんたがここにいるんだよ」
佇んでいる男は、半眼で剥き出された牙を気にもせずに無言だった。
ただ無言で、こちらを見ている。
赤い髪の冷たい男。
「…ったくほんとに息子がかわいいんだな」
反応のなさに、吐息をついてゼロスが歩み寄る。そして、細く長い腕でしなだれかかった。
「…私は何も言っていないが」
無表情のままそう返す、久し振りに実体のある天使。背中に腕を回すことすらしない。
諦めたように、凍る眼を閉じて、クラトスの唇にゼロスは噛み付いた。
窓の下からは、まだ、雨だというのに弾ける華やかな太陽の声。
その眩しさから目を逸し、耳を塞ぐようにゼロスはただ交わされる濡れた音だけを聞き、閉じた瞼の裏側を見ていた。
ゲームをクリアしてだいぶ経つので、記憶が曖昧です。
口調とか色々間違ってたらすみません。
時期的にはフラノールの恋愛イベント後です。もっと幸せそうな話になる予定だったんですが・・・。
とりあえずサイト開設。よろしくお願いします。(逢坂暁)